牛馬チャンと仲間たちぎゅうばチャンとなかまたち
解説編かいせつへん #06大規模分散ウェブサイト構造だいきぼぶんさんウェブサイトこうぞう · 第1話 · 全6話

一台いちだいのサーバーからブラックフライデーに耐たえるまで

2026-07-25

夕方ゆうがた六時半ろくじはん、候鳥わたりチャンは一日いちにち飛とび回まわった疲つかれを引ひきずったまま着地ちゃくちして、いつものように携帯けいたいを開ひらいてブラックフライデーの割引靴わりびきぐつを選えらぼうとした。画面がめんはぐるぐると長ながく回まわり続つづけ、最後さいごには冷つめたいエラー表示ひょうじが出でてきた。彼女かのじょは眉まゆをひそめて三回さんかい押おし直なおしたが、指先ゆびさきは画面がめんの上うえで来こないはずの返事へんじを待まつように浮ういたままだった。隣となりの石段いしだんでは、黒猫くろねこチャンが目めを細ほそめて日向ひなたぼっこをしながら、尻尾しっぽをゆらゆらと地面じめんに擦こすりつけていた。

[候鳥:わたり]チャンが[携帯:けいたい]のエラー[画面:がめん]の[前:まえ]に[立:た]ち、[黒猫:くろねこ]チャンは[隣:となり]の[石段:いしだん]で[日向:ひなた]ぼっこをしている

彼女かのじょは携帯けいたいをしまい、黒猫くろねこチャンの方ほうを振ふり向むいて、どこか納得なっとくいかない口調くちょうで言いった。「今日きょう、買かい物ものサイトの前まえを通とおったんだけど、ブラックフライデーに全然ぜんぜん繋つながらなかったんだよね、なんで?普段ふだんは開ひらくとすぐ表示ひょうじされるのに。」

[候鳥:わたり]チャンが[振:ふ]り[向:む]いて[黒猫:くろねこ]チャンに[問:と]いかける、どこか[納得:なっとく]いかない[表情:ひょうじょう]

黒猫くろねこチャンは尻尾しっぽを引ひっ込こめ、目めをきらりと輝かがやかせた。面白おもしろい話題わだいを見みつけたような表情ひょうじょうだった。「あなたが普段ふだん開ひらく時ときに『速はやい』と感かんじてるの、実じつはその裏うらで一台いちだいのサーバーだけが頑張がんばって支ささえてるのよ——あなたが買かいたい商品しょうひん一ひとつ一ひとつの情報じょうほうも保存ほぞんして、あなたが押おした一ひとつ一ひとつの要求ようきゅうも計算けいさんしてる。ブラックフライデーは、一人ひとりだけが靴くつを見みに来くるんじゃなくて、何十万人なんじゅうまんにんも同時どうじに見みに来くるの。」

[黒猫:くろねこ]チャンが[目:め]を[輝:かがや]かせて[解説:かいせつ]を[始:はじ]める、[背景:はいけい]に[簡略化:かんりゃくか]されたサーバーの[図:ず]

彼女かのじょは少すこし間まを置おいて、爪つめで地面じめんに小ちいさな四角しかくを描えがいた。「一番いちばん最初さいしょの頃ころ、一ひとつのサイトは本当ほんとうに一台いちだいのサーバーだけだったの——データを保存ほぞんする場所ばしょ(サーバー)と、要求ようきゅうを処理しょりする場所ばしょ(応用アプリ)が同おなじ部屋へやに詰つめ込こまれてた。普段ふだん人ひとが少すくなければ、この一台いちだいだけで十分じゅうぶん対応たいおうできて、誰だれが来きてもちゃんと相手あいてをしてあげられたの。」

[黒猫:くろねこ]チャンが[爪:つめ]で[地面:じめん]に[四角:しかく]を[描:えが]き、[単機:たんき][時代:じだい]の[構造:こうぞう]を[示:しめ]す

候鳥わたりチャンが口くちを挟はさんだ。「それで、その後あとは?人ひとが増ふえたら結局けっきょく耐たえられなくなるんじゃない?」黒猫くろねこチャンは頷うなずいた。「そう、最初さいしょに耐たえられなくなった時とき、みんなは『このサーバーが遅おそいだけ』だと思おもって、もっと高価こうかでもっと速はやいサーバーに交換こうかんしたの——これをスケールアップと呼よぶ。でも問題もんだいはすぐにまた戻もどってきた:サーバーがどんなに速はやくても、脳のうは一ひとつだけ。何十万人なんじゅうまんにんもが同時どうじにその名前なまえを呼よんだら、帳簿ちょうぼをつけながらお客きゃくさんの相手あいてをすることなんてできない。二ふたつのことを同おなじ脳のうに詰つめ込こんだら、どっちも速はやくなりようがないの。」

[黒猫:くろねこ]チャンが[元:もと]の[四角:しかく]の[隣:となり]に[立:た]ち、サーバー[交換:こうかん]しても[詰:つ]まったままの[様子:ようす]を[示:しめ]す

黒猫くろねこチャンは立たち上あがり、地面じめんにもう二ふたつの四角しかくを描えがいて、間あいだに一本いっぽんの線せんを繋つないだ。「それで誰だれかが考かんがえたの、いっそこの二ふたつを分わけてしまおうって——一台いちだいは帳簿ちょうぼ(サーバー)だけを管理かんりして、もう一台いちだいはお客きゃくさんの相手あいて(アプリサーバー)だけをする。それぞれ楽らくになったけど、新あたらしい問題もんだいがまた出でてきた:お客きゃくさんの相手あいてをする方ほうのサーバーが、一度いちどに一人ひとりしか入口いりぐちに立たてないなら、後うしろに並ならぶ人ひとはやっぱり待またされる。」彼女かのじょは四角しかくの一ひとつを三みっつ並ならんだ四角しかくに描えがき直なおした。「だから後あとで『案内係あんないがかり』——負荷ふか分散ぶんさんを追加ついかしたの。来きたお客きゃくさんを三みっつの入口いりぐちに振ふり分わけて、誰だれの列れつが短みじかいかで案内あんないするのよ。」

[黒猫:くろねこ]チャンが[分離:ぶんり]した[二:ふた]つの[四角:しかく]と[三:みっ]つ[並:なら]んだ[四角:しかく]を[描:えが]く、[分層:ぶんそう]と[負荷:ふか][分散:ぶんさん]を[示:しめ]す

候鳥わたりチャンは地面じめんの四角しかくと線せんを見下みおろしながら、何なにか考かんがえ込こむような顔かおをして、また携帯けいたいの中なかの、すでに消きえたエラー表示ひょうじをちらりと見みた。「じゃあ私わたしが今日きょう遭遇そうぐうしたのは、あの『帳簿ちょうぼ係がかりとお客きゃくさんの相手あいてが同おなじ脳のうに詰つめ込こまれてた』昔むかしからの問題もんだいってこと?」黒猫くろねこチャンは微笑ほほえんだ。「そうかもしれないし、この後このあとの章しょうの問題もんだいかもしれない——だって分わけた後あとも、新あたらしい面倒めんどうがまた出でてくるから。でも少すくなくとも今いま、あなたは分わかったはず:サイトが『固かたまる』のは、一言ひとこと『サーバーがダメ』で片付かたづけられることじゃなくて、その裏うらには『誰だれが耐たえられなくなったら、分解ぶんかいして役割やくわりを分わけ直なおす』っていう一連いちれんの歴史れきしがあるの。」

[候鳥:わたり]チャンが[考:かんが]え[込:こ]む[表情:ひょうじょう]で[図:ず]を[見:み]つめ、[黒猫:くろねこ]チャンは[微笑:ほほえ]んでいる

黒猫くろねこチャンは尻尾しっぽを一振ひとふりして、さっき描えがいた三みっつの四角しかくを指ゆびさした。「でも当あててみて——お客きゃくさんの相手あいての仕事しごとを三人さんにんに分わけたら、帳簿ちょうぼ係がかりのあの一台いちだいも、そのうち耐たえられなくなるんじゃない?」候鳥わたりチャンは一瞬いっしゅん固かたまった。「あ……ずっと一人ひとりのままだ。」黒猫くろねこチャンは目めをぱちりとさせて、それ以上いじょうは語かたらなかった。

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